エラー・コンセプト

Created: 2025-09-29

SimpleModelingにおけるエラー概念と用語体系について整理します。

IEEE Errorの多義性

IEEE 610.12-1990 では error に対して次の4つの意味を与えています。

No. IEEE Definition

(1)

The difference between a computed, observed, or measured value and the true, specified, or theoretically correct value

計算結果が正しい値から30mずれている

(2)

An incorrect step, process, or data definition

プログラムに誤った命令がある

(3)

An incorrect result

期待値10に対して計算結果12

(4)

A human action that produces an incorrect result

プログラマやオペレータの操作ミス

これらは歴史的にはすべて "error" の語で呼ばれてきましたが、SimpleModelingでは次のように整理します。

  • (1) → Deviation(逸脱)

  • (2) → Fault(障害要因)/Defect(欠陥)

  • (3) → Failure(故障)

  • (4) → Mistacke(過誤 - 人間の誤った行為)

エラー概念の整理

整理結果に基づく因果連鎖は次のようになります。

Mistake (4)

人間による過誤。

Defect (2)

成果物に存在する誤りの総称。

Fault (2)

Defectがシステム内部で具現化した技術的欠陥。

Failure (3)

システムやコンポーネントが要求機能を実行できない現象。

Deviation (1)

計算値や観測値の真値からの逸脱。

ISO/IEC 24765 は IEEEの定義を継承しつつ、Defect を明示的に追加して体系を補強しています。

Javaとの用語衝突

「エラー」という語はソフトウェア工学において多義的に使われてきました。IEEE では人間の過誤を Error と定義していますが、Java では Error クラスが致命的障害を表すため、混乱を招きやすくなっています。

SimpleModelingはモデリングからプログラミングまでをスコープにし、Javaエコシステム(Scala 3を含む)を前提とします。このためIEEEのError概念をそのまま採用すると用語衝突が発生します。

そこでSimpleModelingではErrorを汎用的表現とし、主要な概念体系は Mistake–Defect–Fault–Failure–Deviation に基づかせます。

SimpleModelingでの定義

IEEE Error番号 SimpleModelingでの用語 扱い

(1) Difference from true value

Deviation

Observationで記録

(2) Incorrect step/process/data

Fault / Defect

内部要因

(3) Incorrect result

Failure

外部に表出しObservationで記録

(4) Human action mistake

Mistake

人間由来の原因

この整理により、Error(汎用語)と Mistake(人間の過誤)を区別しつつ、Defect, Fault, Failure, Deviation の位置づけを一貫して扱うことができます。

日本語用語 Defect・Fault・Failure・Deviation・Error・Mistake の訳語は以下の通りです。 | 英語 | 日本語 | |---------+----------| | Defect | 欠陥 | | Fault | 障害要因 | | Failure | 故障 | | Deviation | 逸脱 | | Error | エラー | | Mistake | 過誤 | Fault は一般に「欠陥」と訳されますが、Defect と区別するために SimpleModeling では「障害要因」としています。

観測記録

観測記録(Observation)は、システム運用中に発生する現象を体系的に記録する仕組みです。ここで定義される現象や原因の一部は、エラー概念の Mistake・Defect・Fault・Failure・Deviation と間接的または直接的に結びつきます。

現象

  • Failure

  • Rejection

  • Incident

  • Deviation

この中で Failure および Deviation がエラー由来の現象に対応します。

原因

  • Defect

  • Fault

  • Anomaly

  • Root Cause

この中で Defect と Fault がエラー由来の原因に対応します。また Mistake(過誤)は人間由来の行為であり直接的には記録されませんが、それが Defect や Fault を生み出し、最終的に Failure や Deviation として観測されます。

エラー概念との関係

観測記録における Failure(現象)、Deviation(現象)、Defect・Fault(原因)、そして間接的に Mistake(人間由来の過誤)は、それぞれエラー概念で定義された内容と接続されます。これにより、ISO/IEC 24765 で整理された用語体系と運用上の記録が統合されます。

結果として、SimpleModelingのエラーコンセプトは単なる分析の枠組みにとどまらず、ログ、監査証跡、モニタリング、継続的改善といった実務的な観測活動の基盤となります。

用語定義

用語 定義

バグ (bug)

俗語的にソフトウェアの不具合を指す用語。厳密な技術的定義はなく、Defect や Fault、Failure を広く含む日常的な表現。

欠陥 (defect)

成果物(設計書、仕様書、コードなど)に存在する不完全さや不足。要求や仕様を満たさず、修正や置換が必要となる状態。ISO/IEC 24765 に基づく。

逸脱 (deviation)

計算値や観測値が、基準値や真値から外れている状態。観測可能な量的ずれを表す。

エラー (error)

汎用的な表現として用いられる用語。ソフトウェア工学では多義的に使われ、バグや障害全般を指す。SimpleModeling では広義のラベルとして使用し、個別には Mistake・Defect・Fault・Failure・Deviation に整理する。

故障 (failure)

システムまたはコンポーネントが要求された機能を規定条件内で実行できない状態。外部に表出し観測される現象。

障害要因 (fault)

システム内部に存在する技術的な欠陥。Defect が具現化したもので、実行時に Failure を引き起こす可能性がある。IEEE 610.12 に基づく。

過誤 (mistake)

人間の行為や判断の過誤。設計者・開発者・運用者による誤操作や誤判断を指す。直接は観測されにくいが、Defect や Fault を通じて Failure や Deviation に結びつく。

補足

Mistake はエラー連鎖の起点であり、Defect を導入し、それが Fault となり、最終的に Failure や Deviation として実行時に観測される。